第20回市民公開講座 開催報告

太田市・太田新田歯科医師会主催

 

日時:令和元年12月1日(日)午後2:00~午後4:00

会場:太田市学習文化センター 視聴覚ホール(太田市飯塚町1549‐2)

主催:太田市・一般社団法人 太田新田歯科医師会

後援:太田市教育委員会・太田保健福祉事務所・太田市医師会・太田市薬剤師会

群馬県看護協会太田地区支部・太田栄養士会・太田歯科技工士会

群馬県歯科衛生士会東毛支部・群馬県歯科医師会

 

医歯薬連携
~歯周病と糖尿病~

 

12月とは思えない程暖かな日曜日の午後、記念すべき第20回市民公開講座が太田市学習文化センターにて開催されました。

今年は医科、歯科、薬科と三名の専門の先生方に、それぞれの立場からご講演して頂きます。

 

第20回市民公開講座

 

第20回市民公開講座

 

第20回市民公開講座

 

講演Ⅰ 演題 「糖尿病と歯周病の深い関係」

講師 昭和大学江東豊洲病院 糖尿病・代謝・内分泌内科 講師・診療科責任者

医療法人慶仁会 城山病院 糖尿病内科  李 相翔 先生

城山病院 糖尿病内科 李 相翔 先生

 

〇糖尿病は世界の成人4億2500万人が抱える病気で、年間500万人以上が糖尿病の合併症が原因で死亡しています。脳卒中や心筋梗塞、腎不全や眼底出血などの動脈硬化を起こすだけでなく、悪性腫瘍の発生や感染症の発症、認知症発症とも強く関係すると言われています。

 

慢性炎症としての歯周病をコントロールすることで、糖尿病のコントロール状態が改善する可能性が示唆されています。

 

歯周病は、遺伝的因子や環境的因子などに加えて身体の抵抗性が大きく関与しています。糖尿病により身体を守るマクロファージの機能低下・結合組織コラーゲン代謝異常・血管壁の変化や脆弱化(細小血管障害)・創傷治癒の遅延などが起こり、歯周病の発症・進行に影響を与えます。その結果、糖尿病があると細菌により感染しやすくなり、炎症により歯周組織が急激に破壊され、歯周病が重篤化していきます。

 

そのため、糖尿病の治療をしっかりおこない、歯周病の重篤化を予防することも重要ですが、歯周病をキチンと治療することにより、血糖コントロールが改善し、各種合併症や肺炎を予防できる可能性が強く示唆されます。

日本における糖尿病人口の推移

2015年現在、世界第9位で、糖尿病が強く疑われる人を合わせて2,050万人、女性に比べ男性に多く65~74歳42,8%、75歳以上30,3%、20~64歳26,9%発症(65歳以上73,1%)。

 

糖尿病の二大原因(インスリンの作用不足のしくみ)

  1. インスリンの分泌低下(量の減少)
  2. インスリンの抵抗性の発現(感受性が低下し、作用が十分に発揮できない状態)

 

インスリンの働きが悪かったり、不足することにより血糖値が上昇、インスリンが正常に作用することによりブドウ糖を細胞内に取り込み、代謝調節能を発揮し、血糖値はコントロールされている。

〇糖尿病とは、インスリン作用不足による慢性の高血糖状態を主徴とする代謝疾患群である

・遺伝的要因(家族歴)

・生活習慣からくる要因(肥満、暴飲暴食など)

・外部環境からくる要因(睡眠不足、ストレスなど)

・インスリン分泌低下・抵抗性、バランスが崩れることによって血糖値が上がる病気である。

・主に1型と2型があり、どちらも食事療法と運動療法が基本で型によって治療法が異なる。

・遺伝子のみが発症要因ではなく、生活環境や外部環境も危険因子の1つ、遺伝因子を持つ人は要注意が必要である。

・肥満は2型糖尿病を引き起こす1つの要因であり、肥満が増えると2型糖尿病の危険性が高まる。過去に肥満していた人も要注意が必要!!

 

〇何故糖尿病治療が必要なのか?

糖尿病(高血糖)が原因で新たな病気が出現する。いわゆる合併症の出現。高血糖が著しくなると昏睡状態に陥ることもある。

高血糖がもたらす主なものは、

・細小血管障害(腎症・網膜症・神経障害)

・大血管障害(動脈硬化の進展・心筋梗塞・脳梗塞など)

 

〇糖尿病があると、

・認知症の発症率は4~5倍。

・感染症にかかると血糖値が普段以上に上昇しコントロールが悪化(好中球の貪食機能の低下・免疫反応の低下)!!

・がんの罹患リスクも上がる(1.2倍)<肝臓は2倍>!!

・歯周病に2倍以上罹患しやすくなる。血糖コントロールの悪化により重篤化しやすい!!

 

〇合併症の予防が糖尿病治療のカギ!!

・高血糖が続くことによって合併症が起こる。

・血糖値を良好にコントロールすることが大切。

・正しい治療を続ければ、普段の日常生活を送ることが可能。

・歯周病治療はHbA1cの改善に有効。(統計学的上0.36%改善)

普段のコントロールが重要!! HbA1c<7%

 

〇早期診断・早期治療

自覚症状の少ない糖尿病と歯周病は、早期に並行して治療することで相互の進行防止と改善が認められます。そのためには、それぞれの病気のセルフチェックを行う事が重要です。

 

・糖尿病セルフチェック

・家族や親せきに糖尿病の人が多い

・血糖値が高いと言われたことがある

・おしっこの回数が増えたり、変な臭いがして消えにくい泡が出来る

・最近良くのどが渇き、水分を多くとるようになった

・若い時より体重が増えた、あるいは急に体重が減った

・最近急に視力が落ちて見えにくくなった・足がしびれたり、体が痒くなることがある

・皮膚のできものが治りにくい・あまり運動をしない

 

・歯周病セルフチェック

・口臭・歯肉からの出血、排膿

・歯肉の腫脹・歯の動揺

・食べ物が歯と歯の間に挟まる

・歯茎が下がった

・起床時に口の中がネバネバする

・歯が浮いた感じ・硬い物がかみにくくなった

 

・食事療法(食べる順番が実は大切です。サラダが先!!)

トンカツ定食の場合:味噌汁(汁)→キャベツ→漬物→おひたし→トンカツ→ごはん の順

(血糖値の急上昇を防ぐ)

・運動療法(食後の散歩が特に効果的!!)

1日10,000歩・1回20~30分の有酸素運動・全身運動!!(出来るだけ毎日、無理なく続ける)

・薬物療法(インスリン治療)

・追加インスリン分泌の補充・基礎インスリン分泌の補充・追加、基礎インスリン分泌の同時補充

・GLP-1受容体作用薬(注射製剤):1日1回、1日2回、週1回。

 

〇糖尿病は現在の医療でも完治は難しいですが、良好にコントロールを保ち歯周病をはじめとした各種合併症を予防する事が可能な病気です!!歯周病を治療する事により、血糖コントロールを改善できることが示唆されており、定期的な歯科健診・治療が非常に重要です。糖尿病は、医師と二人三脚で一生付き合っていく病気ですので、自己判断で治療を中断せずに、継続して治療する事が大事です!!

 

講演Ⅱ 演題  「糖尿病の薬物治療」

~服薬アドヒアランスの重要性~

講師  太田記念病院 薬剤部・医療安全管理部   山藤 満 先生

 

太田記念病院 薬剤部・医療安全管理部 山藤 満 先生

 

糖尿病の治療は、食事療法と運動療法が基本です。しかし、良好な血糖コントロールが実現できないときには、合併症の発症や進行を抑えるために薬物治療を開始します。糖尿病のお薬にはさまざまな種類があり、それぞれ異なった特徴を持っています。特に血糖値を下げる 『経口血糖降下薬』 には糖尿病の状態や原因にあわせ、種類が多数あります。同時に服薬アドヒアランス(服薬遵守率)も重要です。どんなに効果のあるお薬が開発されて処方されても、服用されない限り効果は現れません。合併症の発症や進行を抑えるためにも糖尿病を正しく理解し、治療が適正に行われることを期待します。

〇薬物療法の目的

1,原因除去:疾病の原因除去 ・ 抗菌薬

2,対症療法:疾病に伴う症状の緩和 ・ 風邪薬、鎮痛解熱剤

3,補充療法:生体に不足している物質を補う ・ ホルモン剤、ビタミン剤

4,予防療法:疾病の予防 ・ インフルエンザワクチン

◎身体の機能を正常範囲にして、低下や亢進させない!!

 

〇アドヒアランスとコンプライアンスの違い

・コンプライアンス

患者が、医師や薬剤師などから指示された治療法を、指示通りにきちんと守って実行する。

・アドヒアランス

患者の理解、意思決定、治療協力に基づく相互理解の下で、治療を継続する。

 

〇アドヒアランス向上は世界的な課題

慢性疾患に処方された薬剤の服薬継続率は50%に過ぎない!!

アメリカ     :高血圧症の服薬継続率 51%

オーストラリア :喘息の服薬継続率 43%

中国       :高血圧症の服薬継続率 43%

 

〇経口糖尿病薬のポイント

1, 経口薬(飲み薬)による治療が必要な時はどんな時?!

・食事療法や運動療法の効果が不十分な時。

・診断時の血糖値がだいぶ高い時。

2, 糖尿病の飲み薬の種類と特徴!

・経口血糖降下薬は大きく分けて7タイプ。

・病状によって使い分けられている。

3, 飲み薬による治療を正しく続けるために!!

・低血糖(副作用)についての対処法を把握しておく!

・食事、運動療法を続けることが大切!

・飲み忘れ、飲み間違いの防止!

・他の病気の治療薬も服用するときの注意!

・シックデイ(体調不良時)の対策!

・インスリン療法などに変更!

 

〇経口血糖降下薬

・インスリン抵抗性改善系

ビグアナイド薬 : 肝臓での合成を抑える

チアゾリジン薬 : 筋肉や肝臓でのインスリンの働きを高める

・インスリン分泌促進系

DPP-4阻害薬 : 血糖が高い時にインスリン分泌を促進し、グルカゴン分泌を抑える

スルホニン尿素薬 : インスリン分泌を促進

速効型インスリン分泌促進薬 : より速やかにインスリン分泌を促進

・糖吸収、排泄調節系

α‐グルコシダーゼ阻害薬 : 小腸からのブドウ糖吸収を遅らせる

SGLT2阻害薬 : 尿からのブドウ糖排泄を促進

 

〇経口薬の用法(食前・食後・食間とは)

・食前 : 食事の60分から30分前まで。

・食後 : 食後30分位まで。

・食間 : 食後30分から約2時間後(空腹時)

 

〇アドヒアランスをよくするための工夫

・服薬数を少なく : 同じ薬効を有する2~3錠を1錠にまとめる。合剤を利用する。

・服用法の簡便化 : 服用回数を少なくする。食前、食直後、食後などの服用方法の混在を避ける。

・介護者が管理しやすい服用法 : 出勤前、帰宅前にまとめる。

・剤型の工夫 : 口腔内崩壊錠、貼付剤などの利用。

・一包化調剤の指示 : 長期保存、途中で用量調節ができないなどの欠点がある。

緩下剤、睡眠薬など症状によってのみ分ける。薬剤は同一にしない。

・カレンダーの利用 : 飲み忘れ防止に有効。

 

〇かかりつけ薬局の利用

前の薬が余っていたり、飲みにくい薬があったり、1日3回は飲めない、薬の種類が多くて困る等々、こんな時は薬剤師に相談しましょう!! また、お薬手帳も忘れずに持参しましょう!!

 

講演Ⅲ 演題 「歯周病はどんな病気?」

~未病から疾病へ~

講師 ヒデ・デンタルクリニック 院長 山口英久 先生

 

講師 ヒデ・デンタルクリニック 院長 山口 英久 先生

「人生100年」と言われるようになり、長寿社会へとますます拍車がかかってきています。

健康でいるためには、食事ができ栄養を取ることが基本となります。つまり、食べることが、生きていくうえで必要不可欠です。

そして、食べるためには口を使い、歯で噛み砕き、舌を使い飲み込むことになります。しっかり食事がとれなければ、全身にも影響が出てしまいます。

歯周病と糖尿病は、共に生活習慣病であるため密接な関係があります。

歯周病がどのような病気か、歯を残すことがどのようなことなのか、糖尿病との関係についてお伝えできればと思っております。一人でも多くの方々に自分の歯を守るために、歯に興味をもっていただけたら幸いです。

 

〇歯周病(歯槽膿漏)はどんな病気?

 

歯周病は細菌の感染によって引き起こされる炎症性疾患です。進行すると歯周ポケットと呼ばれる歯と歯肉の境目が深くなり、歯を支える土台(歯槽骨)が溶けて歯が動くようになり抜歯をしなければならなくなってしまいます。歯周病とは、歯垢(プラーク)の中の細菌によって歯肉に炎症を引き起こし、やがては歯を支えている骨を溶かしていく病気の事で、結果的に歯を失う原因となります。

 

〇歯周病の原因

お口の中の300~500種類の細菌が、ブラッシングが充分でなかったり、砂糖を過剰に摂取するとその細菌が作用し歯の表面に歯垢(プラーク)を形成します。この歯垢(プラーク)が虫歯や歯周病を引き起こします。歯垢(プラーク)は取り除かなければ硬くなり歯石に変化し強固に付着します。これはブラッシングだけでは取り除くことが出来ません。ここに細菌が入り込み歯周病を進行させる毒素を出し続けます。

次の事も歯周病を進行させる要因となります。

1, 歯ぎしり、くいしばり、かみしめ。

2, 不適合な冠や義歯。

3, 不規則な食習慣。

4, 喫煙。

5, ストレス。

6, 全身疾患(糖尿病、骨粗しょう症、ホルモン異常)。

7, 薬の長期服用。

 

現在では、歯周病は予防でき治療も可能です!!大切なのは予防・診断・治療、そしてメインテナンスです。歯周病の原因は歯垢ですから、それを溜めない、増やさないことが基本です。

 

〇メインテナンス

・歯周病治療のゴールは?=出血の無い歯肉にすること!!

・予防するために必要不可欠な事 : プラークコントロール=歯を磨くこと!!

( 歯垢を歯ブラシによってコントロールすること!歯磨きの徹底!! )

・歯ブラシ(歯磨き)の方法

バス法:歯に対してブラシを45度くらい歯肉の方へ傾けてブラシを細かく動かして磨く!!

・効率的なブラッシング

1, 歯ブラシは一筆書きになるように使用する。

2, 歯ブラシは舌側(内側)から磨き始める。

3, 食後に磨く。

4, 夜寝る前に一番丁寧に磨く。

・感覚を利用したブラッシング指導

1, 指の感覚 : まずは手用歯ブラシ、上手になったら電動や音波歯ブラシを使用する!

2, 歯肉の感覚 : 腫れや痛み等。

3, 舌の感覚 : 舌で歯の表面を触ってみる!ヌルヌルしていないかどうか?!

4, 触覚 : 指や舌で歯や歯茎を触って確認する!

5, 視覚 : 鏡を見てしっかり汚れを落とす!

 

〇まとめ

・虫歯と歯周病は細菌感染であること。

・虫歯と歯周病の怖さを知り、歯の大切さを知ること。

・歯ブラシ(歯磨き)の良い習慣を身につけること。

・歯周病治療をして、メインテナンスをしやすい環境にしておくこと。

・かかりつけ歯科医院の定期健診(メインテナンス)の受診をすること。

 

医・歯・薬連携と題して、三名の先生方にそれぞれの視点から解りやすくご講演して頂きました。

近年、歯科医療は歯の健康だけではなく、全身の健康寿命を伸ばすための医療としてとらえられるようになりました。歯周病と糖尿病の密接な関係をご理解して頂き、明日からの生活に少しでもお役に立てれば幸いです。

―食べること、健康であること、美しくあること 全ては人々の幸せのために!―

 

文責 太田新田歯科医師会 市民公開講座運営委員会 増田康展

第20回市民公開講座

第20回市民公開講座を開催します。

日時   令和元年12月1日(日)14:00~16:30
場所   太田市学習文化センター(太田市飯塚町1549-2)
テーマ  医歯薬連携 ~歯周病と糖尿病~
講演1  演題:「糖尿病と歯周病の深い関係」

講師:昭和大学江東豊洲病院 糖尿病・代謝・内分泌内科講師

   城山病院 糖尿病内科 李 相翔 先生

講演2  演題:「糖尿病と薬物治療」 ~服薬アドヒアランスの重要性~

講師:太田記念病院 薬剤部 山藤 満 先生

講演3  演題:「歯周病はどんな病気?」 ~末病から疾病へ~

講師:ヒデ・デンタルクリニック 院長 山口 英久 先生

 

第19回 市民公開講座 開催報告

太田市・太田新田歯科医師会

第19回 市民公開講座 開催報告

 

日時:平成30年11月10日(土)午後2:00~午後4:00

会場:太田市学習文化センター 視聴覚ホール (太田市飯塚町1549‐2)

主催:太田市・一般社団法人 太田新田歯科医師会

後援:太田市教育委員会・太田保健福祉事務所・太田市医師会・太田市薬剤師会

群馬県看護協会太田地区支部・太田栄養士会・太田歯科技工士会

群馬県歯科衛生士会東毛支部・群馬県歯科医師会

第19回 市民公開講座 開催報告 第19回 市民公開講座 開催報告

 

太田市の歯科訪問診療

~ 歯科医がおうちにやってくる ~

 

前日までの雨も上がり、とても穏やかな秋晴れの下、第19回市民公開講座が太田市学習文化センターにて開催されました。今年も昨年同様、講演会と落語の2部構成で、第1部の公開講座は、太田新田歯科医師会会員の田中靖人先生と武政道代先生のお二人にご講演して頂きました。

第1部公開講座

当院における歯科訪問診療の現状

~患者さんに寄り添った歯科訪問診療

最後まで口から食べることを目標として~

医療法人社団 聖医会 田中歯科医院   院長 田中靖人 先生

医療法人社団 聖医会 田中歯科医院・院長 田中靖人 先生

かかりつけ歯科医院として、かかりつけの患者さんが通院出来なくなってからも最後まで診療を続けていきたい。入院しても、在宅療養になってからも、施設に入居しても。入れ歯やインプラントを含め、口の中の状態は、今まで治療を行っていた、かかりつけ歯科医が一番把握しているはずだから。

田中先生の思いをお伝えされてから、ご講演がはじまりました。

〇歯科訪問診療の依頼理由

◆高齢者の方からの依頼

① 様々な疾患、後遺症や高齢による廃用性症候群(フレイル、サルコペニア、ロコモ)による通院が困難なため。

  • フレイル :健常から要介護へ移行する中間段階のこと。具体的には、加齢に伴う筋力の衰え、

疲れやすくなる等、年齢を重ねたことで生じた、衰え全般のこと。

  • サルコペニア :加齢や疾患により、全身の筋肉量が減少すること。筋力低下により身体機能の低下が起こること。(杖を突いて歩く、手すりが必要になる、ふらつく等)
  • ロコモ  :ロコモティブシンドロームの略称。骨・筋肉・間接・神経等の障害のために移動機能の低下をきたした状態。

② 認知症により徘徊の危険性があり、単独で通院困難なため。

③ 高齢者の方のみの世帯で交通手段がなく、物理的に通院が困難なため。

◆ 難病の方や障害をお持ちの方で、通院が困難な方

◆ 歯科医師のいない、歯科の診療科目がない病院、精神病棟等に入院中で外出できない方

◆ ひきこもりにより、自宅から出られない方

  • 必ずしも、誰でも、いつでも、どこでも、歯科訪問診療の対象者になるわけではありません。歯科訪問診療を受診するためには、継続的に通院出来ない客観的な理由が必要です。

〇歯科訪問診療を依頼してくれる方

◆ ご本人、ご家族

◆ 介護支援専門員(ケアマネージャー)

◆ 施設の施設長、看護師、介護士

特別養護老人ホーム、介護老人保健施設、高齢者専用賃貸住宅、デイサービス等

  • 社会福祉協議会、地域包括支援センター、市役所、民生委員の方
  • 訪問診療を行っている医師、看護師
  • 歯科医師会、歯科訪問診療を行っていない歯科医院など
  • 本人の歯科訪問診療の受診希望があれば、本人、家族、近親者関係者、誰でも依頼可能です。

歯科訪問診療の症例を、スライドを用いて説明

症例①:73歳女性、歯牙破折による疼痛、欠損による咬合困難を主訴とし、精神疾患と高齢による廃用性症候群により、車いすのため独歩通院困難であり、高齢者専用賃貸住宅の施設長より依頼。

保存不可能な残根を抜歯、ブリッジ作製後、口腔ケアにより状態の維持を図る治療計画。

症例②:80歳男性、義歯人工歯脱落。認知症による徘徊の恐れがあるため通院困難。食事介助中、介護士が発見し依頼。義歯修理にて継続使用とする治療計画。

症例③:95歳女性、義歯不適合による疼痛。大腸がんの全身転移、高齢による廃用性症候群により

車いすのため通院困難であり、群馬県立がんセンターの担当医より紹介依頼。慢性下顎骨骨髄炎による腐骨形成。がんセンター担当医と相談し、義歯調整、投薬によりQOL(クオリティーオブライフ)の維持を図る治療計画。

症例④:88歳男性、持続性の顎の痛み、口臭と味覚異常。末期がん(前立腺がん)、廃用性症候群により寝たきりのため通院困難であり、高齢者専用賃貸住宅の施設看護師からの依頼。太田記念病院歯科口腔外科に感染部除去手術を依頼し、手術後の経過観察、術後管理、その他必要に応じた処置を行い、QOL (クオリティーオブライフ)の維持を図る治療計画。

まとめ

歯科訪問診療でも通常の歯科外来診療とほぼ同じ治療を行う事が可能です。しかし、全身的な状態

により外来診療と全く同じ診療内容とはいかないことが多くあります。患者さんや、そのご家族の希望と実際に行える治療内容に隔たりがある場合も少なくありません。全身的な状況により、治療内容にかなりの差が出てしまう事が現実です。お口の中で気になる事がございましたら、先ずは早めに、周りの方にご相談してみてください。

歯科訪問診療では、特に局所麻酔を行う場合は、治療が難しいことが多くあります。口の中の『終活』ではないですが、少しでも元気なうちに、現在のかかりつけの歯科医院にて外来診療を受診して、しっかりとした歯科治療を受けていることが望ましいと思います。寝たきりになってしまったり、通院困難になる前に、常により良い歯の状態、口の中の状態にしておくことが一番大切であるとお話しされ、ご講演を終わられました。

 

「歯科訪問診療の実際」

~歯科訪問診療をより深く知って頂くために~

あおい歯科  院長 武政道代 先生

あおい歯科  院長 武政道代 先生

口には、話すこと、食べること、息をすること、そのような大切な機能があります。その大切な口のトラブルを減らすこと、口の機能を維持すること、疾病により障害が残ってしまった場合に、その障害と上手に付き合うことで療養生活が楽になる可能性があります。

歯科訪問診療には、そのような生活支援の側面もあります。治療だけでなく、生活支援としての歯科訪問診療の内容についてもお話しさせて頂きたいとご挨拶されご講演頂きました。

 

〇口腔・咽頭ケアによる吸引回数の減少

施設に入院されている患者さんが、痰の吸引を嫌がると看護師さんから相談を受け、歯科訪問診療に使用する専用の清掃器具を用いて、口腔・咽頭ケアを行うことにより吸引回数の減少が認められました。

困難だった処置や治療が、ちょっとしたきっかけでスムーズに行えるようになった一つの症例をお話しされました。

〇歯科訪問診療の訪問先の割合(あおい歯科調べ)

施設:51%、居宅:27%、病院22% 

〇歯科訪問診療の原則

1人で通院が出来ない方

 介護認定を受けている・難病や病気のため福祉医療を受給している・怪我や病気で入院・療養中

〇年齢(あおい歯科調べ)

20代から90代まで訪問診療を行っており、最も多いのは80代、続いて70代、60代、90代と徐々に減少、その他年齢が若くなるほど減少傾向にある。

〇費用:訪問診療料

1割負担 訪問診療料 1040円 + 歯科治療費、指導料 など

〇依頼内容(あおい歯科調べ)

義歯に関する依頼(不適合、修理、新製など)が最も多く、次に口腔内の疼痛、歯の動揺、歯の破折、口腔ケア、歯の脱落、歯肉腫脹・出血 など

〇歯科訪問診療の患者さんの基礎疾患(あおい歯科調べ)

・脳疾患(脳梗塞、脳出血、クモ膜下出血など)

・心疾患(心不全、心筋梗塞、心室細動など)

・パーキンソン病、パーキンソン症候群

・骨折(腰椎、大腿骨)・膝関節・腰椎変形症

・肺疾患・腎疾患・難病・がん・怪我

・認知症(アルツハイマー型、レビー小体型、血管性など)

 

2014年厚生労働省患者調査では、高血圧症に続き認知症の患者さんが第2位!!

認知症:462万人、軽度認知障害:400万人、認知機能障害のない高齢者:2217万人

 

〇あおい歯科では、歯科訪問診療の際、認知症状があっても可能かどうか相談されることが多くあります。意思の疎通が出来ない、口を開けていられない、座っていられない、日によって体調や機嫌に変化がある等、ご家族の方は様々なことが心配ですが、その日、その時の状況により、診療内容も合わせて対応しております。認知症は進行性の病気で、緩やかに進行していきます。進行性の病変は回復できませんが、使わずに衰えた機能は回復させることができます。

施設・自宅での療養生活において、食事・歯磨き・着替え・入浴などに介助が必要となります。歯の痛みや、入れ歯の修理や調整だけでなく、食事が上手くできなかったり、むせたり、肺炎を繰り返していたりと、どうしたらよいかわからない時には、歯科訪問診療にてご相談下さい。食を支え、生活を支え、治療へと導くためにも、歯科訪問診療をご利用頂きたいと市民の皆様にお伝えしてご講演が終焉となりました。

 

落語・講演

落語・講演

少し休憩を挟んで、一般社団法人 落語協会 金原亭世之介(キンゲンテイヨノスケ)さんの落語(演題

:かんにんぶくろ)が始まると、会場は大きな笑い声でにぎわい、第1部公開講座で少し疲れた頭がスッキリとして、リラックスした笑顔を取り戻したようでした。

 

金原亭世之介さんは、現代感覚を生かした本格古典派の落語家であり、大正大学 表現文化学科

客員教授・俳人・ミュージシャン・執筆・講演・舞台・新作落語もこなすマルチタレントであります。

 

落語に続き、言語誘導学についてご講演して頂きました。会場から有志として薬剤師会の照井先生にご協力いただき、動体誘導を体験して頂きました。

世之介教授はステージに上がった照井先生の身体を前屈させると、無言で前屈した時よりも、褒めたり、大きな声で挨拶した後で前屈した時の方が+5cmも前屈出来ました!! 挨拶しなかったり、マイナス思考のストレスを加えた後に前屈をしてもらうと、元に戻ってしまいました。外部誘導の効果とのことで、他にも О(オー)リングの心理的要因についてもお話しして頂きました。会場内は隣同士、指でつくった輪を引っ張り合う笑顔の絶えない光景のまま、第2部 落語・講演が終了いたしました。

第17回市民公開講座

来年は、記念すべき第20回目の市民公開講座となります。今年同様、市民の皆様が笑顔で会場を後にして頂けるような公開講座を開催し、歯と口と全身の健康を維持し、支える事が出来れば幸いです。

 

文責 太田新田歯科医師会 市民公開講座運営委員会 増田康展

第17回市民公開講座開催のご案内

介護保険が導入された平成12年から始まった太田新田歯科医師会の市民公開講座、今年からは太田市との共催となり、より細やかなテーマに対応できるものと期待しています。

さて、今年は「摂食・嚥下障害とリハビリテーション」を題材に講座を開催します。健康・長寿の国日本ですが、高齢者の健康寿命延伸こそが医療・介護のテーマです。そこで今回は国内の第一人者である馬場尊先生、足利赤十字病院リハ科の尾崎健一郎先生をお招きし、その病態からリハの実際までわかりやすく解説していただきます。

この講座で正しい知識を得、皆様の健康寿命の延伸に役立てていただければ幸いです。

第17回市民公開講座開催のご案内

第16回市民公開講座 開催報告

太田新田歯科医師会 

16回市民公開講座 開催報告

 

日時:平成27年11月14日(土)午後2:00~午後4:00

場所:太田市学習文化センター(太田市飯塚町1549-2)

主催:一般社団法人 太田新田歯科医師会

口の中のがんの怖さ

~手術しますか?それとも予防しますか?~

小雨が降り続く寒い陽気ではありましたが、足元の悪い中多くの市民の方々にお集まりいただき、第16回市民公開講座が開催されました。

今回は、群馬大学大学院医学系研究科顎口腔科学分野教授の横尾 聡 先生を講師としてお招きし、口の中の「がん」をテーマに御講演して頂きました。

 

口の中にできるがん「口腔がん」は、舌がん、上顎歯肉がん、下顎歯肉がん、頬粘膜歯肉がん(頬の内側の粘膜のがん)、口底がん(下の歯肉と舌の間のがん)、硬口蓋がん(上顎の真ん中の硬いところのがん)の6カ所をいいます。

口腔がんは、直接見ることができるため初期症状を発見しやすいですが、認知度が低く進行するまで放置されやすい病気です。標準治療は手術療法しかないため患者さんにとっては非常に大きな負担がかかります。しかし、早期の段階で適切な治療を行えば、9割は完治が見込める病気です。

口腔がんの年間罹患者数は全国で7,000人程おり、がんの中では頻度は少ないですが、進行した口腔がんの手術においては、顔面が欠損するのでQOL(Quality Of Life)が低くなってしまいます。しかし、血管縫合の技術の進歩によって再建手術を行うことにより、社会的生命の回復が可能になりました。ただし、切除手術と再建手術は同時に行うので手術時間が10時間以上かかることは珍しくありません。

群馬県では、口腔がんを扱っているのが群馬大学だけであり、そのうちの9割を口腔外科、顎顔面外科が扱っています。2013年においては年間121人の患者数があり全国で1位となりました。また、横尾教授が赴任されてから7年が経過し、以来行った200例以上の手術は1例の失敗もないという事でした。

講演では、口腔がんの手術写真を動画で紹介しながら、がんが進行すると顎の骨を削ったり、鼻や顔の皮膚、首のリンパ腺なども切り取る必要があり、「口の中の物をちょっととればいいというものではなく、非常に怖いものだという事を身に付けてほしい」と話されました。

口腔がんは約70%が歯科医院で発見され、全体の約80%が口腔外科で診療されています。また、喫煙や飲酒は発生率を高めることがわかっています。

発がんの前兆をキャッチするために気をつけてほしい3つの口腔粘膜疾患があります。食べ物を口の中に入れた時にしみる口内炎や、板状や斑状に白くなる口腔白板症、主に頬粘膜に見られ白色にレース状になる口腔扁平苔癬です。口内炎の多くは、1,2週間で治りますが、長く続く場合は要注意です。がんは小さいと痛みを感じないことが多く、そのために発見されにくく放置されてしまう病気です。がんが小さい早期の段階なら30分程度の簡単な手術で済み、転移する前の初期の段階で発見する事が治療の負担を大きく減らすことになります。毎日1回は口の中をチェック。日頃から口の中の事に注意して頂くことが早期発見につながります。そのためには、「禁煙節酒」に努めること、口腔がん検診を受診すること、定期的に歯科医院で検診すること。と市民の皆様にわかりやすく、大きな手術にならないよう予防することの大切さを説明され、終演となりました。

 

文責 太田新田歯科医師会 市民公開講座運営委員会

委員長 増田康展