平成29年度東毛地区学術講演会

「う蝕治療ガイドラインに基づいた超高齢時代のう蝕治療のあり方」

講師 新潟大学大学院医歯学総合研究科口腔保健学分野

教授 福島 正義 先生

日時 平成29年11月18日(土) 17:00~
会場 桐生市歯科医師会館

今年度の東毛地区学術講演会は、桐生市歯科医師会主催にて行われ、新潟大学歯学部 福島 正義先生のう蝕治療ガイドラインに基づいた超高齢時代のう蝕治療のあり方を聴講しました。太田新田歯科医師会からは17名の先生が出席されました。

平成29年度東毛地区学術講演会 平成29年度東毛地区学術講演会

昭和32年から行われてきた歯科疾患実態調査の動向から、12歳児の永久歯列のう蝕罹患状況は昭和50~56年をピーク(DMF指数5.9)に平成28年には1/30へ減少(DMF指数0.2)しました。

う蝕の増加要因は経済成長に伴う砂糖消費量の増加と関係していますが、う蝕減少要因はフッ化物応用の普及、口腔保健行動の変容、少子化、学校歯科検診の診断基準の変更などが考えられるとのことでした。

う蝕治療はう蝕増加期の治療技術(早期発見・早期治療)に基づいていますが、う蝕減少期に生まれた新世代(昭和50年~)は良好な口腔を保持していることから、WHO口腔保健部長であったD.E.Barmes博士の歯科医療技術の将来予測にあるようにModerte Technology(削って、詰めて、かぶせる、抜歯する技術)やHigh Technology(インプラント、GTR、再生医療など)は減少し、健康な口腔を長く健康に保つためのLow Technology(セルフケア、予防)の構築の必要性にせまられていることを指摘されました。

一方で超高齢化時代を牽引する戦前世代(昭和10年~昭和19年生)では、平成28年時点の8020達成者は51.2%と推計されており、調査年ごとに現在歯数は増加しています。

しかし、後期高齢者におけるう蝕および歯周病は増加傾向にあり、とくに要介護高齢者や口腔乾燥症患者などの「多発性根面う蝕」の対処は深刻な問題である。

根面う蝕の予防・治療は緊急の課題であり、また咬耗や摩耗などの非う蝕硬組織疾患も増加するであろうとお話しされました。根面齲蝕に対する福島先生の治療は、フッ化ジアンミン銀による根面う蝕の予防、早期検知と進行抑制の薬物療法をおこない、その後審美的評価後、う窩の深さにより修復処置の有無を判定する方法をご教示いただきました。

20世紀後半のクリニカル・カリオロジーの発展が明らかにしたのは、う窩を形成する前の段階でう蝕を発見し、う窩形成や切削介入に至らないように、早期からのう蝕を管理することであると述べられました。

自分自身でご家庭でできる予防としては、毎日のブラッシング、フロス・歯冠ブラシの活用、間食・甘味制限などです。歯科医院では歯科衛生士によるプロフェッショナルケア、フッ素塗布を挙げられました。

高齢者社会を迎え歯冠部のう蝕から歯根部のう蝕への増加に伴い、ライフステージにあわせたセルフケア、プロフェッショナルケアの重要性を再確認できた講演会内容でした。

文責 太田新田歯科医師会 学術医療管理委員会 渡木 澄子

太田新田歯科医師会スタッフスキルアップセミナー

平成29年度 太田新田歯科医師会スタッフスキルアップセミナー

「歯科衛生士 安生朝子の考え方 2017」

講師 歯科衛生士 安生 朝子 先生

栃木県 藤橋歯科医院 ㈱ジョルノ代表

日時 平成29年11月23日(木) 10:00~12:00
会場 宝泉行政センター

太田新田歯科医師会では、歯科医院に勤務するスタッフへ向け毎年セミナーを開催しています。今年度は中央医療歯科専門学校、太田医療技術専門学校と共催にて、歯科衛生士 安生 朝子先生にご講演をしていただきました。

太田新田歯科医師会スタッフスキルアップセミナー

講師 安生先生は、歯科界では名前を知らない人はほとんどいないスーパー歯科衛生士です。全国各地で講演会をされています。当日は約270名の方に参加いただき会場は満員でした。「歯科衛生士 安生朝子の考え方 2017」という演題で以下のテーマについてお話されました。

  • 歯科医療チームの一員であること―コミュニケーションとは?
  • 歯周基本治療の進め方―保険と時間と信頼とは?
  • メンテナンスとSPT―検査と実際そして予後は?
  • 他科との連携―超高齢社会の中で何ができるか?

多岐にわたる内容でしたが、患者さんを迎えるにあたりスタッフ全員が診療室の目配り、気配り、聞き配りを常に意識し患者さんへ接していくことの大切さ、歯科衛生士として歯科医院でのあり方を経営の点からお話くださいました。

歯科衛生士 安生 朝子先生

また歯科衛生士になり35年、「長期メンテナンス」が先生の主な歯科臨床となっています。最高に長くメンテナンスをされている患者さんは30年以上とのことです。子供の頃からみている男の子に彼女ができたことにより口腔内のプラーク状況が変わったことを例に挙げ、長期メンテナンスを行う中で患者さんの状況は変わり、必ずプラークコントロール、咬合、歯周組織の状態に変化がみられ、その時々の患者の状況・ライフステージを理解し、長期メンテナンスは決して漠然とクリーニングをし続けることではなく、口腔内の変化に気づき見抜いていくことが歯科衛生の役割であり、臨床の面白さであることを強調されました。

高齢社会を迎え、根面う蝕の増加、義歯のメンテナンスの重要性、またご自身の親の介護を通し、食の考え方についても先生の考えを聞くことができました。

約2時間にわたる講演でしたが、診療に対し真剣に患者さんと向き合っているからこそ診療に対する姿勢(マナーや時間配分)などの厳しいお話もあれば、時に笑いもあり、先生のお話に引き込まれた講演会でした。

今回の講演会を通し、歯科医院のスタッフに良い刺激となり患者さんに長期に寄り添っていけるスタッフとなっていただければと思います。

スキルアップセミナー

文責 太田新田歯科医師会 学術医療管理委員会 渡木 澄子

1. はじめに

介護保険制度が施行され5年目を迎かえ、見直しの論議が進んでいます。
その際の見直しの基本的視線として
「制度の持続可能性」
「明るく活力ある超高齢化社会」
「社会保障の総合化」
の3点が検討されています。
そこで、高齢者の心身機能、活動、参加といった生活機能の低下を予防して、要介護状態に陥らない、
あるいは状態が悪化しないようにすることを重視する「予防重視型システム」への切り替えが求められています。
特に、「明るく活力ある超高齢化社会の構築」においては、「食事」への問題提起がなされ、
「口腔機能向上」が「介護予防」のための新たなるサービスとして検討されています。
口腔機能向上によって十分な食事量を確保し、「低栄養」の防止に役立てる。
また、「誤嚥」や「窒息」を予防し誤嚥性肺炎や不慮の事故を防止することを目的としています。
さらに、口腔衛生の自立や清潔度の改善は口臭の予防や味覚の改善、
誤嚥性肺炎など気道感染の予防に寄与することが期待されています。
これらは、高齢者のQOLという観点からも重要な課題と考えられています。