「食後30分は歯を磨いちゃダメなの?」

厚生広報委員会
もろ歯科医院 院長 毛呂慎(もろまこと)

ちょっと前にマスコミで話題になった事。
元ネタは1年ほど前、とあるアメリカの歯科団体が発表したもので、象牙質という歯の一部分の材料を使った実験。
・食後30分以内に歯を磨くとダメージがあって・20分以内だと更に深刻なダメージが加わる結果として食べ物に含まれている酸を歯のより深い部分により早く浸透させてしまう。
だから「食後30分は歯を磨いちゃダメ」…という内容。

今日のお話に際して2つだけ専門用語の説明をしなくてはいけません。

まず1つ目。『脱灰と再石灰化』
食べ物を食べると口中が酸性になって歯の表面のCaやPが溶け出す(=脱灰)
唾液の緩衝作用によって逆にCaやPが取り込まれる(=再石灰化)。これの繰り返しです。
池の水が寒くなると凍って、暖かくなると溶けるみたいなもの。
食後30分というのは脱灰した歯が再石灰化し始めるまでの時間を根拠としてます。
その前に歯を磨くと、再石灰化するのを阻害しちゃうよって事。
これだけを見れば、正しい事を言っているのですがむし歯にならないように歯を磨くということはもっと様々な多面性がある訳です。

続いて2つ目。『歯の構造』です
真ん中に空間があって神経が入っています。
冷たいものがしみるとか、むし歯が痛かったり、歯を削ると痛い…例のやつです。
その周りに今回実験に使われた「象牙質」があって更にその周りに「エナメル質」があります。
チョコレートでコーティングされた棒付きのバニラアイスをイメージすると分かりやすい。
棒…神経。バニラ…象牙質。チョコ…エナメル質

元々日本人の歯は欧米人と比べて象牙質が厚い。
相対的にエナメル質が薄い。これは半透明ですから健康な歯でもやや黄色味がかっているわけです。
欧米人はその関係が逆転しますから白く見えるんです。
エナメル質の硬さは生体で一番硬くモース硬度6~7です。
これは「ナイフで傷つけることができず、刃が痛む」というレベルです。
それだけ硬い組織ですから、そんなに簡単には削れません。
なので30分以内に歯を磨くと、歯が黄色くなるというのも根拠なし。

つまり、この実験のデータがそのまま日本人に当てはまる訳ではないしそもそも、むし歯に関係する最大の存在を忘れてます…そうです、むし歯菌です。
食後すぐに磨かないということは、その間に口中の細菌が酸を作る余計な時間を与えてしまう事にもなる。

きちんと歯磨きの習慣が確立している人は30分ズラしても良いかもしれませんが上手に磨けないお子さんや歯周病で口中に細菌がたくさんいる人は再石灰化する前のダメージを心配するよりも歯磨きを習慣付ける方がはるかに大切だと。

運動して汗をかいたら、少しでも早くシャワーを浴びてスッキリしたいですよね。
それと同じだと思いませんか?
是非とも安心して歯磨きに励んでみてください。